COPA症候群(遺伝性の炎症性疾患)の病態を反映する新規モデルマウスを樹立

発表日時 365体育app3年6月28日(月)11:00~11:20
場所

和歌山県立医科大学 生涯研修センター研修室(図書館棟 3階)

発表者

生体調節機構研究部  大学院生 加藤 喬
生体調節機構研究部  教授 改正 恒康

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発表内容

概要

COPA症候群は、間質性肺炎や関節炎を呈する遺伝性の炎症性疾患である。細胞内におけるタンパク質の輸送を担うタンパク質であるCOPαのアミノ酸置換をきたすCOPA遺伝子のバリアント (遺伝子の違い) が疾患の原因であることがわかっているが、詳しい病態は明らかになっておらず、治療法も確立していない。今回我々は、京都大学大学院医学研究科発達小児科学の井澤和司、聖隷浜松病院小児科の松林正らと共同で、COPA症候群様の症状を呈する患者で同定された新規のCOPA遺伝子バリアントを導入したマウスを樹立し、その解析を行った。そして、そのマウスにおいて、間質性肺炎が発症すること、樹状細胞からの炎症性サイトカインI型インターフェロン (IFN) 産生が亢進していることを見出した。今後このマウスの解析を進めることで、樹状細胞の機能を制御する新たなメカニズムの解明、および、COPA症候群や間質性肺炎に対する新たな治療法の開発が進むことが期待される。

1. 背景

図1COPA症候群は、COPA遺伝子バリアントを原因とする常染色体顕性 (優性) 遺伝性の難治性炎症疾患であり、間質性肺炎や関節炎、糸球体腎炎などを呈する。COPA遺伝子はCoatomer subunit α (COPα) と呼ばれるタンパク質をコードしており、COPαは、輸送小胞coat protein complex I (COPI) を構成するサブユニットとして、ゴルジ体あるいはERGIC (小胞体ゴルジ体中間区画) から小胞体への、様々なタンパク質の輸送を担っている (図1) 。COPA症候群の患者では、COPA遺伝子バリアントにより、この輸送が障害されると考えられているが、病態をきたす分子基盤についてはほとんどわかっていない。
また、COPA症候群患者の末梢血細胞では、I型IFNによって誘導される遺伝子群 (interferon-stimulated genes、ISGs) の発現が亢進 (I型IFN症*1) しているが、COPA遺伝子バリアントとの関連はよくわかっていない。  京都大学の井澤和司ら、聖隷浜松病院の松林正らは、COPA症候群様の症状を示す患者から、COPαにアミノ酸置換を引き起こす、新規のCOPA遺伝子のヘテロ接合性のバリアント (COPA V242G、COPαの242番目のアミノ酸バリン(V)がグリシン(G)に変換)を発見した。我々は、このバリアントを導入したCOPA症候群モデルマウスを作成、解析することにより、病態を再現し、その分子基盤の一端を明らかにした。

2. 研究手法?結果

図2まず、CRISPR/Cas9法*2により、COPA V242G をマウスに導入した。COPA V242Gをヘテロで有するマウス (CopaV242G/+ マウス、COPA V242Gマウス) の各臓器を組織学的に解析したところ、COPA症候群の患者と類似した間質性肺炎の所見を認めた (図2) 。一方、関節?腎臓?肝臓など他の臓器には組織学的な異常を認めなかった。続いて、マウスの脾臓細胞におけるISGsの発現を解析した結果、COPA V242Gマウスにおいては、野生型マウス図3 (Copa+/+ マウス) に比較して、ISGsの発現が亢進していることが明らかになった (図3) 。このように、間質性肺炎とI型IFN症を呈していることから、COPA V242GマウスはCOPA症候群の病態を反映するマウス、COPA症候群モデルマウスとして有用であると考えられた。
次に我々は、マウスの骨髄由来の樹状細胞*3を用いて、COPA V242GマウスにおけるI型IFNの産生誘導能を解析した。図4COPA V242Gマウスの骨髄由来樹状細胞は、野生型マウスの骨髄由来樹状細胞に比較して、細胞質内の核酸(DNA)センサー(STING*4)刺激によるI型IFN産生能が亢進していた(図4) 。一方、RNAセンサーなど他の刺激によるI型IFN産生能はむしろ低下していた。このように、COPA V242Gを持つ樹状細胞では、STING刺激によるI型IFN産生を抑える機構が障害されていると考えられた。
次に、I型IFN産生能が亢進する分子基盤の解析を行った。STINGは、刺激を受けていない細胞の中では小胞体に局在していて、刺激を受けるとゴルジ体へ移動する。図5ゴルジ体へ移動したSTINGは、タンパク質リン酸化酵素TBK1を活性化する。TBK1は、さらに転写因子IRF3をリン酸化することでI型IFNの産生を誘導するとともに、TBK1自身およびSTINGもリン酸化することでI型IFNの産生誘導をさらに促進する (図5) 。
そこで我々は、COPA V242Gマウスの骨髄由来樹状細胞におけるSTINGの局在を蛍光顕微鏡で評価した。すると、COPA V242Gマウスの樹状細胞において、STINGの刺激を受けた後に、STINGのゴルジ体への局在が顕著に増強していることが明らかになった (図6) 。さらに、この際、TBK1およびSTINGのリン酸化も著明に亢進していた(図7、矢印)。このように、COPA V242Gマウスの樹状細胞では、STINGが刺激されたのち、その局在がゴルジ体へ偏る(シフトする)ことで、その下流シグナルが増強し、I型IFNの過剰な産生が生じている可能性が示唆された。

3. 波及効果

本研究で、我々はCOPA症候群患者の病態を反映する新規のモデルマウスを樹立すると共に、そのマウスにおいて、間質性肺炎とI型IFN症が発症すること、樹状細胞におけるI型IFN産生が亢進することを見出し、その分子基盤を明らかにした。
COPA症候群患者の遺伝子バリアントの解析は国内外の複数のグループでも研究が行われており、現在注目されている分野である (Mukai et al. Nat Commun 12:61,2021. Lepelley et al. J Exp Med 217:e20200600,2020. Deng et al. J Exp Med 217:e20201045,2020.) 。我々が樹立したCOPA V242Gマウスの解析により、COPA症候群や間質性肺炎の病態メカニズムの解明、新たな治療法の開発が進むことが期待される。
また、樹状細胞は生体防御を担う免疫担当細胞であり、ウイルス感染防御やがん免疫療法などへの応用が期待されている一方、過度に活性化された場合には自己免疫疾患や自己炎症性疾患の炎症病態に関与することがわかってきている。今回の我々の研究により、樹状細胞を標的とした、ウイルス感染やがんに対する新たな防御手段や新たな炎症制御剤の開発が進むことも期待される。

4. 掲載論文

米国時間2021年5月13日、国際誌Arthritis & Rheumatologyに掲載された。
題目:Augmentation of STING-induced type I interferon production in COPA syndrome
著者:Takashi Kato, Masaki Yamamoto, Yoshitaka Honda, Takashi Orimo, Izumi Sasaki, Kohei Murakami, Hiroaki Hemmi, Yuri Fukuda-Ohta, Kyoichi Isono, Saki Takayama, Hidenori Nakamura, Yoshiro Otsuki, Toshiaki Miyamoto, Junko Takita, Takahiro Yasumi, Ryuta Nishikomori, Tadashi Matsubayashi, Kazushi Izawa, Tsuneyasu Kaisho
DOI: 10.1002/art.41790

5. 補足説明

*1 I型IFN症: I型インターフェロン (IFN)誘導性遺伝子群 (Interferon stimulated genes: ISGs) の発現亢進が認められる現症のこと。I型IFN症を呈する代表的な疾患として、アイカルディ?ゴーティエ症候群や中條-西村症候群があげられ、しばし全身性の炎症症状が認められる。
*2 CRISPR/Cas9: clustered regularly interspaced short palindromic repeat-Cas9の略。DNA二本鎖を切断してゲノム配列の任意の場所を削除、置換、挿入することができる遺伝子改変技術である。開発者は2020年にノーベル化学賞を受賞した。
*3 樹状細胞: 樹状突起を持つ白血球で、病原体を認識して取り込み、T細胞に様々な情報を伝える抗原提示細胞である。
*4 STING: Stimulator of interferon genesの略。病原体センサーの一つである。ウイルスなどの外敵由来のDNAを認識してI型IFN産生誘導を促し、生体防御機能を発揮する。

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